以下、外部に投稿した小論文を掲載します。

 

 

AI vs.教科書が読めない子どもたち』が示さなかった、

 

読解力を養う方法

 

 

 

田村和広 

 

 

多くの人が「子どもたちの将来」に

不安を感じている

 

ライオンは狩りのしかたを子どもたちに教えるという。いつの時代でも、親はわが子の安泰を願い、生き残る術を伝える。DNAに上書きされない重要情報を次世代に伝達する営みも「生命」の一側面だろう。

 

 

 

専門家によると近々「AIが発達して社会が激変する」らしい。AIもよく解らないのに「シンギュラリティ」などという物騒な響きの言葉もよく聞く。映画「マトリックス」や「ターミネーター」で描かれていた世界が現実になるのだろうか? 社会が激変するならば、わが子にどんな知恵を授けるべきだろうか?

 

 

 

このような心理状態の親達にとって、「AI vs.教科書が読めない子どもたち」という書名は効果甚大で、本書は出版から1年で発行25万部を超えたという。著者新井先生には敬意を表したい。

 

 

 

私は学習塾で小中学生と高校生に個別指導をしている。日々、子どもたちの読解力を高めると同時に、逆に子どもたちからも多くを教えられている。また、中学受験から大学受験まで同一人物を鍛え続けられるので、10代の知的成長の軌跡も追体験できる。そのため、子どもたちが読めなくなる原因とその脱出方法について、具体的事例として知っている。その知見から、本書が示さなかった読解力を養う方法を1つご紹介したい。(私自身の読解力は高くない。また「単なる個人的経験ではないか」との指摘は正にその通りだ。)

 

 

 

読解力の重要性

 

以下、読解力を「文を読んで理解する力」と定義し、それに続く「思考」を含めない。また、難解な文章を「論理パズルとして読み解く」技術ではなく、「単文を読んで内容を理解する」読解力について取り扱う。

 

 

 

人類は、文字の発明により歴史を得た。脳内世界が時間軸方向に広がった。さらに文字や図により一時記憶を外化することで、ワーキングメモリ(一時記憶と思考)の限界を克服した。結果、科学技術とともに現実世界も変化した。

 

 

 

日本人は、文字により、日本語という祖国を手に入れた。古事記や万葉集以来、豊かな文化を連綿と紡いできた。一方、危険な煽動や国語表記の改悪など、原子爆弾被弾にも相当する祖国存亡の危機も経験した。今もなお、社会変化は継続中である。

 

 

 

子どもたちは、教育により文化を継承させられる。知識や技術の入力には音による話し言葉に加え、記号としての書き言葉も大きな役割を担う。また、国語や英語はもとより、実は算数も数学も「数学的読解力」を養わないと全く上達しない。あまり意識されないが、大学受験においてさえ、知識や計算力よりも読解力の方が重要である。

 

 

 

言うまでもなく、読解力の重要性は今後も高まり続けるだろう。

 

 

 

ただし、「読解力が低いと将来は暗い」と考えるのはやや短絡的だ。音の言葉も有力な手段であり、文字にならない重要情報も大量に存在するからである。一例を挙げるなら、ある難読症の人気俳優はセリフを耳で聞いて覚えるという。逆に「読解力が高い人間は将来が明るい」と単純化することも慎みたい。

 

 

 

本書の最大の問題点

 

本書の最大の問題点は、自らが提起した問題に対して、解答を用意していないことである。具体的には、「子どもたちの読解力は低い。このままでは将来は暗い」とする一方、「ではどうすれば読解力が高まるのか」という具体的な解を提示していない。そのため、せっかく高めた読者の知的欲求不満に対し、本書はカタルシスを与えてくれない。著者による問題解決の提案が1つでもあったならば、読後感も爽やかなものになっただろう。

 

 

 

「読解」とはなにか

 

「わかる」とは、「入力情報が既に知っている記憶と一致するか、既有知識に変更を加えること」とされる。つまり読んで解る「読解」とは、「文字や図を目で読み、そこから受け取った視覚的情報が脳内で記憶と一致する、または記憶が更新される」一連の認知活動のことである。

 

 

 

例えば「リンゴを食べる」という文を読解するためには、第一に「物体」としての「リンゴ」と「食べる」という「行為」を知っていること、第二に「書き言葉」としての「リンゴ」と「食べる」という単語を知っていること、第三に「現物(行為)」と「言葉」が脳内で結びついていることが必要である。(主語他の文法要素は省略。)

 

 

 

また読解力には、語彙知識の量に加え、複数の言葉を一時記憶する能力(≒ワーキングメモリ)と類推力も関係する。ワーキングメモリ自体には大きな個人差はないとされるが、記憶の塊が多いほど圧縮記憶が効くので、一時記憶できる情報量には大きな個人差がある。

 

 

 

どうすれば読解力は高まるのか

 

読解力を高める指導方法としては、アン・サリヴァン先生が実践した手法が核心をついている。視聴覚に障碍を持つヘレン・ケラー氏に“Water”を教える際、片手に水(現物)を流し、他方の手掌に文字(言葉)をつづり、ヘレンの脳内で物と言葉を結合させたという。その要諦は、ジャンパーの左と右をファスナーでつなぎ合わせるように、現物と言葉を結びつける作業である。

 

 

 

具体例を示す。「お店で80円のみかんを4個買い、500円玉を出すとおつりはいくら?」

 

読解が苦手な子どもにとって、このような「文章の問い」は難問である。文章が指し示す事象が解らないのである。ところが、この子どもに500円玉を握らせ、「この500円で買えるだけ好きなお菓子を買っていいよ」と「口頭で」言うと、ほぼぴったり500円使い切ってくる。これは一体どういうことなのか。

 

 

 

子どもたちの中では、既に具体的な「買い物」という行為のメンタル・モデル(:心の中のイメージ)は完成している。その一方で、この現実の行為を表象する言葉のメンタル・モデルが存在しないか、あっても現実の行為と結び付けられていないのである。言葉を知らないか、これらを結び付ける学習経験が無いことが文章題を理解できない原因なのである。

 

 

 

読解力を付けるために必要な基礎作業は、第一に、子どもに豊富な実体験をさせること、第二に、それに対応する言葉を文字でも覚えさせること、第三に、子どもの脳内にバラバラにある経験と言葉の2つのメンタル・モデルを結び付けてあげることである。

 

 

 

具体的な指導作業としてこの買い物の例で示すと、買い物の後にレシートを使って子どもに買った物の説明をさせればよい。この「実体験の記憶と書き言葉を接続する」作業が不足すると、読解力が高まらないのである。実物と言葉の円滑な連想ができるようになれば、様々な文章の意味がとれるようになる。

 

 

 

この手法にも課題はある。ヘレン・ケラー氏には1人の先生が付きっきりで指導に当たれたが、これには多額の費用がかかる。コスト問題を克服する一つの方法は、親自らが時間と手間を子どもにかけることである。(サリヴァン先生が言う「愛」とはこのことか。)子どもに買い物や料理等の実体験を積ませ、それを子ども自身に書かせたり、親が文字情報で説明したりすることである。

 

 

 

なお、これはあくまで初歩の話で、読解力を高める具体的手法は状況に合わせた豊富なバリエーションがある。より上位の「読解力」を知るには、「わかったつもり 読解力がつかない本当の原因 、光文社新書、著者:西林克彦氏」と「読ませる技術 聞かせる技術、講談社、著者:海保博之氏」が実用的だろう。

 

「算数教室」ですが、数学指導が得意です。数学が苦手な原因の多くは、算数時代の技術訓練不足です。根本から養成します。

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